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連載コラム 多面鏡:1999年5月(2)[1999年5月27日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

クレジットという仕組み

 アメリカの店では客が百ドル札で支払おうとすると、場合によっては拒否されることがあるという。偽札の可能性が高いから、というのが理由だ。フランスでも五百フラン札は、高級ホテルや有名ブティックなどはともかく、小さなカフェやレストランでは歓迎されないことが多いし、タクシーなら拒否される可能性も高い。もちろん、釣りが面倒という事情もあるだろうが、実際のところ高額の紙幣は、あまり信用されないものなのである。日本では一万円札が当然のように使われているが、世界的に見れば、高額紙幣が歓迎されている事態が例外的な現象なのである。
 こうした違いの背景には多くの要因があるが、そのなかでも、「売買では何が信用されるのか」という視点が見逃されがちである。フランスの場合、紙幣そのものではなく、客自身の支払能力に信用が置けるのかどうかが問われるのである。そのことは、銀行口座を開設するときの手続が、日本に比べてはるかに煩雑であることが証明している。支払能力とは、口座にきちんと入金できること、でもあるからだ。紙幣という偽造可能な「物」の方が信用できるのか、それとも消費者の支払能力という目には見えない「事」の方が信用できるのか。単純な比較はできないが、少なくともフランスでは、支払能力を重視した制度が築き上げられているのである。
 日本でも八〇年代からキャッシュレス社会ということが言われている。しかし、クレジットカードの利用が増えればキャッシュレスになるわけではない。そこには「何を信用するか」という視点の転換が必要なはずである。ここ数年は、インターネットでの電子マネーが世界中で注目されている。米国やフランスなら、個人小切手以来培われてきた個人の信用照会システムを土台にできるが、依然として現金重視が実態の日本では、取引の慣行が劇的に変わりでもしない限り、これもしょせんは一過性の話題で終わってしまうのではないか。


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