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TAFクォータリー(財団法人電気通信普及財団/発行)2001年7月号
江下雅之

 毎週金曜の夜になると、一万人以上のローラースケーターがパリ市内の道を滑走する。一九九七年にはじまった「パリ・ローラー」と呼ばれるこのスポーツイベントには、世界中の愛好家が集う。七年間におよんだパリ滞在の最後の年となった九九年には、わたしも毎週のようにこのイベントに参加した。
 参加のための注意事項はパリ・ローラーの専用サイト(http://www.pari-roller.com/)に掲載されている。滑走コースも前日午後にはこのページで発表される。わたしはかならずここにアクセスして事前にコースを確認していたし、参加者のなかには掲載されるコース図をプリントアウトして持参する者も多かった。小グループで参加する人たちにとっては、携帯電話もまた必携品だ。天候がいい時期には二万人近くが参加するので、仲間と一緒にスタートしてもすぐに離れ離れになってしまうからだ。
 イベントにはじめて参加したとき、インターネットでルートを確認し、ごくあたりまえに携帯電話を使う人々の風景を見て、フランスの通信事情もほんの一、二年で激変したものだと実感した。日本のマスコミ報道では日本の「通信後進国」ぶりを強調しがちだが、フランスではインターネットも携帯電話もはるかに普及が遅かった。電話代とてずいぶんと高く、「せめてNTTぐらいの料金になってくれないか」とは、多くの在仏日本人ネットワーカーの声だった。携帯電話は端末の性能が悪く、わたしが九六年に購入した電話機など、待ち受け時間がわずか十六時間だった。日本でのめざましいサービスの拡大や料金の値下がり、機器の進化がうらやましかったものだ。
 そのフランスでも、九八年ごろから火が噴いたようにインターネットや携帯のブームが始まった。結局、フランスの消費者というのは、あたらしいサービスや機器が登場しても、自分にとっての利点を見きわめるまでは手を出さないのである。周辺の国で普及しているからとか、ライバルの国に負けないためにとかという発想が希薄なのだ。あくまでも自分のライフスタイルを中心に判断している。それに比べると、日本ではIT戦略などと称し、やたらと他者との比較や競争意識が前面に出てはいまいか。ライフスタイルとの親和性を無視し、いたずらに普及率を論じることに、いかなる意味があるのか。そういう発想は、結局は道路や橋を光ファイバーやADSLに置き換えただけであり、悪名高い「ハコモノ行政」とおなじ感覚である点に、そろそろ気づいていいのではないか。


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