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連載コラム 多面鏡:1999年9月(1)[1999年9月9日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

フランス語の中の日本語

 ファースト・フード、ネットワーク、コンピュータなどの言葉は、英米語の単語がそのまま日本語として定着したものだ。しかし、フランスではファースト・フードはresto-rapide、ネットワークはreseau、コンピュータはordinateurという言葉が文語でも会話でも一般的に用いられている。なかでもresto-rapideは、fast foodという語がそれなりに普及した後に、アカデミー・フランセーズが取り決めた翻訳語だ。国語の乱れに目を光らせるこの機関、英米語を中心とした外国語の進入にはとりわけ神経質で、日本では片っ端からカタカナ言葉として定着してしまう米語を次々とフランス語に置き換えている。フランス人の若者の一部は、米語を用いることに格好良さを感じているようだ。中には米語をフランス語風に発音する者もいる。しかし、純粋のフランス語を用いることに、多くの人は同意しているようである。
 しかし、フランス語が排他的なわけではない。外来語が定着した例はいくらでもあるし、日本語起源の単語もある。たとえばテロや災害の報道では、しばしば「カミカゼ(kamikase)」という単語が使われる。ストーリー漫画を「マンガ(manga)」と呼ぶ例も多い。実際のところ、既存のフランス語の社会文化的な概念でくくられる範囲のものであれば、フランス語の範囲内で対応する言葉を用いているのに対し、フランス文化にとって未知の事象を表現する言葉は、そのまま外来語が受け入れられることが多いようである。「カミカゼ」は典型的な例だ。
 言葉には社会文化的な背景を持ったニュアンスが付随するものだが、安易に外来語をカタカナ化する日本語の世界は、異質な文化をすばやく取り込む柔軟さがある一方、いわゆる業界用語や若者言葉に見られるように、元々の意味からかけ離れた用例で使われ、一部の人たち以外には意味不明といった状況ももたらしている。アカデミー・フランセーズの一見すると頑迷な行動は、言葉の文化的な存在理由を考えれば、むしろ当然のことなのではないか。


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