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フランス コミュ荷ケーション[4]
「DAIFUKU NEWS」(ダイフク広報室/発行)1996年no.150掲載
江下雅之

ネットワーク・ブームの終焉

ブームの実態は?

 ある出版社の広報課長にインターネット・ブームについて尋ねられたとき、ぼくはこう答えたことがある。 「ホームページは童貞のセックスとおなじ。すぐに立つ{・・}けど長持ちしない」
 インターネットも含めたネットワークは、世間が思うほど利用されていないのではないか、という気がしてならない。たしかにパソコン・ブームという追い風に乗り、ネットワーク事業者のところには入会ラッシュが続いている。ところが、大多数の利用者はほんの一度か二度興味本位で接続し、「こんなものか」と思ってしまうのではないか。あるいはまた、利用するのが思いのほか面倒なので、最初から幽霊ユーザーになっているのかもしれない。
 企業や個人のホームページも開設ラッシュだが、どれだけ内容が更新されているのだろう? 立ち上げはブームに煽られた勢いでやれるだろう。しかし、それを日々メンテナンスするとなると、退屈な仕事がのしかかってくる。おおくの人に情報を発信しようと思って手を広げれば広げるほど、維持する手間はいや増すばかり……。競ってホームページを開設した企業は、一年後にはどういう態度を取っているのだろうか?

ネットワークはビジネスになっているのか?

 フランスには「テレテル(Teletel)」という通信網が世界で唯一発達している。このテレテル、一般には「ビデオテックス(Videotex)」という通信規格のひとつである。そしてビデオテックスこそ、泡と消えた10年前のニューメディア・ブームの主役であった。日本でも「キャプテン」というサービスをNTTがおこなっているから、名称をご存じの方もおられるだろう。
 なぜテレテルは成功したか?
 当初考えられた要因は、普及初期段階に、フランス郵電省が簡易端末(ミニテル)を無料配布し、同時に電話帳や電話による番号案内を廃止するという、アメとムチの使い分けだ(注:電話帳は現在では復活しており、ミニテル端末も有料レンタルとなっている)。しかし、集客力のある情報サービスが続出したことこそが、最大の成功要因と見るべきだろう。
 テレテルではおおくの情報提供者が有料サービスを始めた。このあたりの状況は日本のダイヤルQ2サービスに似ている。このおかげで、魅力的なサービス(怪しげなものも含めて)が一気に増えたのだ。フランスは有料サービスを奨励したが、日本をはじめおおくの国は、フランスとはまったく反対に、情報提供者からも掲載料を取ろうとした。そのため、集客力のある情報を確保するのに四苦八苦したのだ。
 ところで、フランスでもインターネット・ブームが起こっているが、テレテルに情報を提供している業者は、インターネットへの移行にまだ躊躇している。
 現在のインターネットのホームページは、かなりの部分が無料情報だ。 「タダなら結構ではないか」
 と考えている人は、よくよく考えてほしい。はたしてカネを取れる情報を、企業はみすみすタダで提供するだろうか? 現在企業のホームページで提供されている情報のほとんどは、広報や営業の省力化が主目的ではないだろうか? 実際に従業員を常駐させて電話で応対するよりも、ホームページのほうが広報の手間ははぶける。マスメディアに比べれば、インターネットはかなり割安な宣伝媒体だ。もちろん宣伝効果はまだテレビなどには及ばないが。
 このように考えると、インターネットはまだ省力化の道具であって、それだけで収益をあげる媒体とはなっていないといえる。

そして生き残るのは?

 いわゆる「500ドルパソコン」が登場すれば、ネットワーク利用者は一気に拡大するという意見がある。しかし、今なら二世代前のパソコンが3、4万円で売られている。インターネットを利用するだけなら、これらのマシンで十分だ。
 使いやすさが改善されれば、ネットワークの利用はもっと増えるという意見もある。その可能性は否定しないが、強い動機さえあれば、多少やっかいな仕組みでも、なんとか使いこなそうと努力するものだ。逆にたいした切実さもなく利用しようとする者は、なにかにつけて「使いづらい」と文句をいうだろう。操作性の問題点がアンケートなどで指摘されているとすれば、それは「魅力あるサービスや情報がない」というメッセージと判断すべきだ。
 テレビが一日中CMばかり流していたら、視聴者に見放されてしまうだろう。テレビが登場した直後なら、「絵が映っている」事実だけで視聴者を確保できるかもしれないが、つなぎとめるためには、カネのかかったコンテンツを提供する必要がある。そしてカネをかけるためには、それで儲かるようにならねばいけない。
 通信ネットワークは物流などに絶大な威力を発揮している。既存業務の合理化に資することはすでに立証ずみだ。
 次の段階は、ネットワークでどれだけ「カネを取れる」コンテンツを提供し続けられるかどうか、だ。このように考えると、1年後、2年後に残っているホームページ、そしてプロバイダなどのネットワーク事業者は、かなり少なくなる可能性があるのではないだろうか。


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