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連載コラム 多面鏡[1998年11月5日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

マナーの問題? 個人の問題?

 携帯電話の普及で日米や北欧よりも遅れていたフランスだが、最近は一気に身近な存在となってきた。カフェのなかでも携帯電話で話をしている勤め人や学生が目につく。SFRが毎月送ってくる会報によれば、九八年六月末時点で普及率は一三・二%。これは日本の二年前の水準だが、フランスでは九七年末時点では一〇%弱だから、最近の急激な利用者増が数字の上からも実感できる。
 携帯「先進国」日本では、身近な存在になってから、携帯電話の迷惑ぶりがクローズアップされた。最近は電車のなかでは「携帯電話はご遠慮下さい」と繰り返しアナウンスされるし、入り口に「携帯電話お断り」の札をぶらさげる喫茶店も多くなった。
 フランスでもそういう状態になるのだろうか? いや、ならないように思う。縦列駐車でびっしり埋まる道路を見ると、そう考えざるをえない。
 そもそも携帯電話を持つということは、いつでもどこからでも通話できる利便性を買うことである。電車やバス、カフェのなかで利用できなくしたら、携帯電話の存在価値を否定することになってしまう。自動車もおなじことで、これは自分の好きなところに移動する手段として所有されるものなのだから、自由に駐車できる場所がなければ意味がない。迷惑駐車という発想そのものが、自動車の存在価値を否定することなのである。
 もちろんフランス人のなかにも、携帯電話での会話を迷惑に感じる人はいるだろうし、誰もが鬱陶しく感じる通話風景もあるだろう。しかしそういうとき、彼らは問題をマナーという社会規範レベルに持ち込むのではなく、あくまでも個人の立場から相手にクレームをつけるのではないだろうか。騒音に関するメンタリティは社会によって異なるかもしれないが、それ以前に、所有という行為に対する合理性、迷惑と感じるときの反応という点で、彼我の違いが現れるように思うのである。


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