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多面鏡[1998年11月19日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

建てては壊しの経済成長

 やや古いニュースではあるが、九七年度の日本の実質経済成長率は二十三年振りにマイナスを記録した。第一次オイルショック以来のことである。九八年度の見通しも明るくない。二年続けてマイナスという可能性もある。
 もっとも、長年不況にあえいでいたドイツやフランスでは、ゼロ成長が当たり前、マイナス成長も大事件というほどのことではない。それと比較すれば、日本の方は戦後最悪という状況でのマイナスなだけに、それほど深刻になることもない、いいかげんに成長神話から脱したらどうだ、という意見が出てきそうである。しかし、ドイツやフランスなどと比較するなら、日本は成長し続けなければいけないマクロ要因もあるのだ。
 ずばり、住宅建設である。フランスに住んでいる人なら、築百年のアパートがごく普通に売買され、賃貸されていることをご存じだろう。「戦後の建築」と言うときも、第二次大戦後ではなく第一次大戦後を指すことが多い。地方に行けば十八世紀のお城がまだ「現役」だ。しかし日本であれば、築四十年のマンションは老朽建築物だし、築百年ともなったら、文化財に指定されるかもしれない。
 もちろん気候や習慣の違いはある。日本には地震という要因もあれば、太平洋戦争で街が全壊したところもある。が、それを差し引いたところで、日本では年がら年中建物を造っては壊しという行為が繰り返されていることに変わりはない。そしてその支出が経済活動のなかでけっして小さくない比率を占めている。あるエコノミストの試算によれば、この民間建設投資だけで、日本は独仏と比べて一パーセント以上高い潜在成長性があるとのことだ。しかし、住宅は誰もが必要とするものである。それを建てては壊すことで得られる潜在成長性など、どれほどの意味があるのか。おなじゼロ成長・マイナス成長でも、日本の方が事態は深刻なのである。


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