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連載コラム 多面鏡[1999年2月3日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

職住分離環境と混在環境

 東京のサラリーマンは、交際範囲までも会社中心となりがちだが、パリで働く人は、会社の人間関係とプライベートな関係とは別物という意識が一般的であるといわれる。こうした指摘は日本のタテ社会を批判的に語るときに言及されるが、東京とパリとの職住の位置関係にも注目して考えてみるべきであろう。
 高度成長期以降の宅地開発の過程で、東京は職住環境の分離が進んだ。千代田区や中央区は住民の「過疎化」が進み、これらの区の小学校は相次いで廃校された。オフィス街はパリ市にも存在するが、職場と住宅地とが物理的に離れている状況は、東京の方が徹底している。パリ郊外に居住しパリに通勤している人は多いが、大東京圏に比較できる規模ではない。
 東京にオフィスのある多くのサラリーマンは、近郊都市から一時間前後かけて通勤している。都市社会学者の松本康らのグループの調査によれば、東京近郊に住む都心勤務のサラリーマン男性は、友人の大半が移動時間二時間という広範な地域に分布し、その多くは職場の同僚である。彼ら職場の同僚と職場の近辺で遊ぶしかないのである。郊外の自宅に帰り着く時間は早くても七時ごろ。郊外は都心に比べて遊びのインフラが乏しい。あらためて繁華街まで出たら遊ぶ時間がなくなってしまう。同僚は同僚で家は遠く離れている以上、どうしても退社後の帰宅前にオフィスの近くで一杯、ということになってしまう。その点、オフィスや住居、映画館やレストランなどが渾然一体となったパリは、職場と住居の移動時間が短いうえに、遊びのインフラは職場近辺にも住居の近くにも充実していることになる。別に会社の同僚と帰宅前に一杯やらなくても、遊びの相手や場所の選択肢は豊富なのである。「職」と「住」とが混在しているからこそ、そこに「遊」も混ざりあえるのである。パリもドーナッツ現象が皆無とはいわないし、閑静な住宅地もある。しかし、街のなかに職場や住居が混在することで、交際範囲が大きく広がる可能性がある点を見落とすべきではない。


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