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連載コラム 多面鏡[1999年2月16日執筆]
「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之

裸足とトップレス

 日本人は屋内で靴を脱いだ生活、フランス人は履いたままの生活、だから靴に対する感覚は違って当然なのだが、そのあまりの差異に愕然とすることがある。実際、フランス映画のなかで、登場人物が靴を履いたままベッドに寝転ったりソファーに寝そべる場面は数えきれないほどある。たとえばジャン・ギャバン主演の「ヘッドライト」では、ギャバン演じるトラック運転手が途中の宿で泥靴のままベッドで仮眠していた。屋内に土足で立ち入るのにも抵抗を感じる人であれば、ベッドにまで汚れた靴を履いたままという感覚は理解できない。
 ところがフランス人の中には、逆に「靴を脱いで変な感じがしないのか?」という疑問を日本人に投げかける人がいる。どうやらそのフランス人にとって靴は衣服の一部であり、人前で靴を脱ぐのは恥ずかしいという感覚があるようだ。これが平均的フランス人の感覚なのかは不明だが、年中靴を履いていれば、「靴は衣服の一部」という感覚があったとて不思議はない。冒頭に挙げたベッドの例も、我々には依然として違和感が残るとはいえ、理屈の上では納得できなくはない。
 靴イコール衣服の一部となれば、靴下は下着ということになる。長距離電車では靴を脱いでくつろぐ日本人がいる一方、靴のまま座席に足を載せるフランス人を見かけることもある。日本人にとって座席に土足を乗せるなどもってのほかだが、フランス人にとっては公衆の面前で下着を晒すなどとんでもないこと、という反応になるのだろう。女性の前で男が靴を脱ぐというは特殊なメッセージとなりうるだろうし、映画の中にはそう思わせる場面も確かにある。
 靴下が下着となれば、それを脱ぐのは部分的とはいえ裸になる行為に他ならない。であれば、砂浜や土の上で裸足になることも、夏の南仏やパリのセーヌ河畔でよく見かけるトップレス姿も、開放的な感覚をもたらす点で同じという可能性がある。しかし我々は、開放感とは関係なく靴を脱いでしまう。そこに深いマナーギャップが生じてしまうことがあるのだ。


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